色と文様 きものの色について(至凡氏きものばなし)

きものの色について考察するとき、まず考えねばならないことは、日本人固有の自然観である。
人間を自然の一部とし、そこに溶け込んで生活してきた日本人である。
ときに自然を偉大なものとしてとらえ、ときにその自然と人間を本来一体のものとして考える日本人の自然観はどんな場合も自然と共に生きるということを基底としており、それはまたきものに染色し。文様を描くときに深刻な影響を持ったのである。

生きるという終局の目的を逸脱した文化など、どこにもありえない。きものも、生きるという命題にたっての歴史的文化である。
したがって、着物の染色美、文様美を真に理解するには、日本人の古来よりの自然観、人生観、そこに伴う価値観を理解しなければならない。

近頃身についたきもの姿に出会う機会が少なくなったのは、自然との共存を忘れた人間が、きものとの共存も忘れ独り善がりになって、きものの本質を考えないからである。
しっとりとした余情を感じさせるきもの姿が生まれる素地は、きものの発想から創造の過程にある精神性に負うのである。
人間にとって、きものは何か。そしてどのような思いで色を染め、文様を描き、どのようにして着たかを思想に高めなければなるまい。

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