能面の表情が懐かしい(至凡氏きものばなし)

日本人は感情に乏しいといわれる。古来より、感情を露骨にしないことを美徳とした。

たしかに、感情が露骨になれば、人間は醜い。醜いだけではなく、感情のいかんによって闘争へと発展しかねない。
感情は言葉では通じない。感情を伝えるのは動作である。動作を媒体として感情を伝えるのは、世界の民族に共通する。
日本人はきものの仕種によるさまざまな動きによって感情を表現し、伝えてきた。それゆえにきものを情緒機能とするのである。

きものの仕種は、かなり微妙な感情を表現する。
感情は活動的な衣服よりも、非活動的な衣服の方が伝えやすい。しかも、それを情緒的に美しく表情するという事になれば殺伐とした当世に、きものの存在を是としなければならない。

そして能面が魅せる美は、それを小面などの女面に限れば、日本女性の感情表現を凝集した美である。
今はその表情が大層懐かしいことのように思える。

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