不確実性の美学(至凡氏きものばなし)

不確実性は、日本人が長い間費やして育ててきた美学である。不確かは日本的情緒の土壌でもある。
「つまらないものでございますが」など、その不確かなところに、いいしれぬ心がこもり、人間の美しさを観る思いがする。

近代科学は、これまで多くの不確かな部分を、めまぐるしい速さで確かにしてきた。不確かな部分が確かな部分になるほどに生活の環境は便利になったりするが、人間が不遜になり、人間性の喪失がみられてくる。かっての旅は、目的地に向かって歩くしかなかった。それは限りなく不確かである。

今日の乗り物のような確実性は薄く、目的地に行き着く確率は低い。だから、道すがらに自然との協調性が育ち、情緒的人間にならざるをえなかった。不確かな世界こそが人間性を養う環境である。